第169回(2023年上)直木賞候補作全部読むの巻。
はじめに
発表された候補作を全部読んで、どの作品が受賞するか予想しました。
ワンポイント感想で明確なネタバレはしていませんが、本を読みなれている場合は内容の予想がついてしまう表現があるかもしれないので、それがイヤな場合はブラウザそっ閉じ願います。
逆に、フワっとしたことしか言ってないじゃん、と物足りない方がいらしたらそれもごめんなさい。
リンクは全体的にAmazonへ飛びます。
サクッと予想
今回はズバリ「 木挽町のあだ討ち」(永井沙耶子/新潮社)ではないかと予想。
普通に小説として、一番デキがよかったと思います。
個別感想
「骨灰 」(冲方丁/KADOKAWA)
第169回直木賞候補作! 進化し続ける異才が放つ新時代のホラー。
大手デベロッパーのIR部で勤務する松永光弘は、自社の高層ビルの建設現場の地下へ調査に向かっていた。目的は、その現場について『火が出た』『いるだけで病気になる』『人骨が出た』というツイートの真偽を確かめること。異常な乾燥と、嫌な臭い――人が骨まで灰になる臭い――を感じながら調査を進めると、図面に記されていない、巨大な穴のある謎の祭祀場にたどり着く。穴の中には男が鎖でつながれていた。数々の異常な現象に見舞われ、パニックに陥りながらも男を解放し、地上に戻った光弘だったが、それは自らと家族を襲う更なる恐怖の入り口に過ぎなかった。
「#骨灰」(#冲方丁/KADOKAWA)
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2023年6月26日
文章の整った洒落怖。正直ホラー好きは幾度となく見たモチーフではある。現象は派手だけどそんなに怖くないホラー。読み疲れしない、ダレない、構成がしっかりしている。驚きポイントもちゃんと用意されていてよい。#第169回直木賞候補https://t.co/hfPmRGn4GH
「極楽征夷大将軍」(垣根涼介/文藝春秋)
やる気なし使命感なし執着なしなぜこんな人間が天下を獲れてしまったのか?動乱前夜、北条家の独裁政権が続いて、鎌倉府の信用は地に堕ちていた。混迷する時代に、尊氏のような意志を欠いた人間が、何度も失脚の窮地に立たされながらも権力の頂点へと登り詰められたのはなぜか?
「#極楽征夷大将軍」(#垣根涼介/文藝春秋)
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2023年6月26日
足利尊氏の話。本人の頭が極楽なら、周囲は地獄を見るのは当たり前の話でした失念。主に弟君の直義と側近の師直が尊氏を担ぎ上げて室町幕府が成立するのだけれど…というなんかまあ、組織を作るって大変だね…。#第169回直木賞候補https://t.co/jjHxaRVegL
「踏切の幽霊」(高野和明/文藝春秋)
「踏切の幽霊」『ジェノサイド』の著者、11年ぶりの新作!マスコミには決して書けないことがある――都会の片隅にある踏切で撮影された、一枚の心霊写真。同じ踏切では、列車の非常停止が相次いでいた。雑誌記者の松田は、読者からの投稿をもとに心霊ネタの取材に乗り出すが、やがて彼の調査は幽霊事件にまつわる思わぬ真実に辿り着く。1994年冬、東京・下北沢で起こった怪異の全貌を描き、
「#踏切の幽霊」(#高野和明/文藝春秋)
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2023年6月29日
踏切で電車の緊急停止が相次ぎ、それがどうも幽霊のせいらしいということで雑誌記者がその正体を追う話。社会派ホラーとでも分類するか。わりと悲劇的かな。真相究明に重点が置かれていて、ミステリっぽさが強め。#第169回直木賞候補https://t.co/A4bIj3tOJK
「香港警察東京分室」(月村了衛/小学館)
テロリストを追え! 圧巻の国際警察小説。香港国家安全維持法成立以来、日本に流入する犯罪者は増加傾向にある。国際犯罪に対応すべく日本と中国の警察が協力する――インターポールの仲介で締結された「継続的捜査協力に関する覚書」のもと警視庁に設立されたのが「特殊共助係」だ。だが警察内部では各署の厄介者を集め香港側の接待役をさせるものとされ、「香港警察東京分室」と揶揄されていた。メンバーは日本側の水越真希枝警視ら5名、香港側のグレアム・ウォン警司ら5名である。初の共助事案は香港でデモを扇動、多数の死者を出した上、助手を殺害し日本に逃亡したキャサリン・ユー元教授を逮捕すること。元教授の足跡を追い密輸業者のアジトに潜入すると、そこへ香港系の犯罪グループ・黒指安が襲撃してくる。対立グループとの抗争に巻き込まれつつもユー元教授の捜索を進める分室メンバー。やがて新たな謎が湧き上がる。なぜ穏健派のユー教授はデモを起こしたのか、彼女の周囲で目撃された謎の男とは。疑問は分室設立に隠された真実を手繰り寄せる。そこにあったのは思いもよらぬ国家の謀略だった――。アクションあり、頭脳戦あり、個性豊かなキャラクターが躍動する警察群像エンタテイメント!
「#香港警察東京分室」(#月村了衛/小学館)
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2023年6月29日
日本・香港の警察官各5名ずつの10名で構成された特殊部署が、香港でデモの主犯とされる被疑者を捜索しつつ黒社会とドンパチしたり本庁と政治的駆け引きをしたり…という話。万人受けしそう。ややご都合感はある。#第169回直木賞候補https://t.co/wwSPNKxiw3
「木挽町のあだ討ち 」(永井沙耶子/新潮社)
疑う隙なんぞありはしない、あれは立派な仇討ちでしたよ。芝居町の語り草となった大事件、その真相は――。
「#木挽町のあだ討ち」(#永井沙耶子/新潮社)
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2023年6月29日
木挽町での仇討ち、その目撃談と目撃者達の人生、そして人間模様を描く、インタビュー形式の時代ミステリ。謎解き要素は薄いのだけれど、舞台設定がしっかり生きていて、読ませる力が強かった。タイトルも◎#第169回直木賞候補https://t.co/CWdBP8icHd
作者受賞歴
第169回直木賞候補作が発表されましたー!
前振り
作者と候補作、出版社一覧
作者名
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作品名
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出版社
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特設サイト等
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現状確認できず
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現状確認できず
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現状確認できず
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永井沙耶子
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新潮社
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現状確認できず
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今回日常系とかなくてエンタメ振りっすね。楽しく読めるものが多そう。
各作者情報
1、冲方丁
2、垣根涼介
3、高野和明
4、月村了衛
5、永井沙耶子
第168回(2022年下)直木賞候補作全部読むの巻。
はじめに
発表された候補作を全部読んで、どの作品が受賞するか予想しました。
ワンポイント感想で明確なネタバレはしていませんが、本を読みなれている場合は内容の予想がついてしまう表現があるかもしれないので、それがイヤな場合はブラウザそっ閉じ願います。
逆に、フワっとしたことしか言ってないじゃん、と物足りない方がいらしたらそれもごめんなさい。
リンクは全体的にAmazonへ飛びます。
個別感想
「光のとこにいてね」(一穂ミチ/文藝春秋)
『スモールワールズ』を超える、感動の最高傑作
たった1人の、運命に出会った
古びた団地の片隅で、彼女と出会った。彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。
彼女に惹かれたその日から、残酷な現実も平気だと思えた。ずっと一緒にはいられないと分かっていながら、一瞬の幸せが、永遠となることを祈った。
どうして彼女しかダメなんだろう。どうして彼女とじゃないと、私は幸せじゃないんだろう……。運命に導かれ、運命に引き裂かれる
ひとつの愛に惑う二人の、四半世紀の物語
『光のとこにいてね』一穂ミチ | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
「#光のとこにいてね」(#一穂ミチ/文藝春秋)https://t.co/PUrNH9yl16
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2022年12月19日
裕福な家庭の少女と団地育ちの少女が出会うところから物語が始まり、小2、高1、29歳時での交流が3部構成でそれぞれ描かれる。文体が読みやすく心理描写も細やか。表題の意味が時系列で変わるところも◎
百合小説としても読めそう。
まあそんな感じなんですが、百合でした。
「光のとこにいてね」というフレーズが、各章ごとに繰り返し出てきて、作中のモチーフのひとつとして使われる「パッヘルベルのカノン」の主題と重なります。情緒的な文体の物語ではありますが、とにかく上記のようなフレーズ、モチーフ、小道具が多く、それをもとに結構ロジカルに構成されているのでは? という感じも受ける。夫の扱いだけなんとかしてやってくれまいか。都合よすぎだろアレ。
作者受賞歴
「スモールワールズ」第9回静岡書店大賞、第43回吉川英治文学新人賞
過去の直木賞候補作は、第165回「スモールワールズ」
ノミネートは本作「光のとこにいてね」が2回目。
amzn.to
「地図と拳」(小川哲/集英社)
「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」
日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野……。奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。ひとつの都市が現われ、そして消えた。
日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲の名もない都市で繰り広げられる知略と殺戮。日本SF界の新星が放つ、歴史×空想小説。
地図と拳/小川 哲 | 集英社 ― SHUEISHA ―
「#地図と拳」(#小川哲/集英社)https://t.co/oiT0R0NSCt
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2023年1月14日
600ページ超え、主な舞台は満州、質量も中身も重い。not for meではあったが、「満州地方都市たぶんこうだったんじゃないか劇場」歴史小説としてアリなんじゃないだろうか。ちょっと冗長には感じたが、刺さるひとには刺さりそう。
ノットフォーミーであった……。そもそも分厚いので持ちにくいし重い700g以上あった。背割れも気になるし分冊してほしい。
それはさておき内容も、ストーリーだけおさらいすると面白いんだけど、どうして自分の中でここまで評価が低いのか我ながら謎。
地の文も登場人物の発言も、繊細に描かれているというよりは冗長で、やはりあまり面白いと感じず。
作中に「神拳会」という銃弾を弾き返す肉体を得ることができる拳法的なものが出てくるのですが、急にそこだけファンタジーがかっていて浮いてるし、ある人物を生き残らせるためのご都合としか思えず…。
巻末見ると長期間連載だったみたいなので、そのせいなのかな?
ただ、山田風太郎賞受賞という情報とあらすじ等々を夫に話したところ、「めちゃめちゃそれっぽい」ということだったので、単にそういう小説なのかも。
作者受賞歴
「ゲームの王国 上/下」第38回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞
「SF作家の倒し方」(「S-Fマガジン」2021年6月号)第53回星雲賞日本短編部門
「地図と拳」第13回山田風太郎賞
過去の直木賞候補作は、第162回「嘘と正典」
ノミネートは本作「地図と拳」が2回目
amzn.to
「クロコダイル・ティアーズ」(雫井脩介/文藝春秋)
この美しき妻は、夫の殺害を企んだのか。
息子を殺害した犯人は、嫁である想代子のかつての恋人。被告となった男は、裁判で「想代子から『夫殺し』を依頼された」と主張する。犯人の一言で、残された家族の間に、疑念が広がってしまう。「息子を殺したのは、あの子よ」
「馬鹿を言うな。俺たちは家族じゃないか」未亡人となった想代子を疑う母親と、信じたい父親。
家族にまつわる「疑心暗鬼の闇」を描く、静謐で濃密なサスペンスが誕生!
『クロコダイル・ティアーズ』雫井脩介 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
「#クロコダイル・ティアーズ」(#雫井脩介/文藝春秋)
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2023年1月15日
元彼が夫を殺し、判決時に「嫁に頼まれた」と発言したせいで婚家一同がじんわり嫁を疑う話。義伯母がいい具合に燃料投下してくるので姑から嫁への疑惑が晴れず、最終的に思わぬ方向で決着を見る。割とハッピーエンド。https://t.co/nLoYv8f7su
帯を見て心の支え、ミステリ枠。と思ったら公式あらすじ的にはサスペンスだったという…w
暁美から見た想代子への疑惑の種は、普通だと嫁姑問題の域を出ない範囲なんですよね。それが東子(義伯母)の情報提供によってより深く長い猜疑心の道へ暁美を誘っていくわけですよ。東子も悪気があるわけじゃなく暁美夫婦を心配してのことだし、暁美自身も東子を頼ってのこと。登場人物の中でハッキリとした悪意を持って動いている人間は本当に少なくて、それがより人間の怖さを浮き彫りにしている気がしました。ラストは正直やっつけ感があった気がしないでもないけど、面白かった。
作者受賞歴
「栄光一途」第4回新潮ミステリー倶楽部賞
「犯人に告ぐ 上/下』第7回大藪春彦賞を受賞
直木賞ノミネートは本作「クロコダイル・ティアーズ」が初。
amzn.to
「しろがねの葉」(千早茜/新潮社)
戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出されて……。
生きることの官能を描き切った新境地にして渾身の大河長篇!
千早茜 『しろがねの葉』 | 新潮社
「#しろがねの葉」(#千早茜/新潮社)
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2023年1月16日
石見銀山で山師に拾われ育てられたウメ。元々夜目が利いたので成長後は銀堀を目指し見習いをしていたが第二次性徴を迎えたことで夢破れる。ウメが自身の生き方と女性としての生き方の両立を模索し、切り開いて行こうとする物語だと感じた。https://t.co/nP41hS9jaL
歴史枠。かなあ?
石見銀山という舞台にあまり意味を見出せなかった。帯のフレーズもあり、途中まで読んで、夢破れた後女郎になって云々という話かなーと思っていたのだけど、そこまで暗い話ではなく。
後半ウメが石見の女性としての生き方に適応してしまうのも、ちょっと前振りはあったけどヨロケ(塵肺)のせいで女性が生き残ることが多い苦しみ、みたいな感じでうーん? という。
登場人物の造形やエピソードはいいのに、ちょっと舞台設定が上滑りしてるかな、という印象でした。
作者受賞歴
「魚神」第21回小説すばる新人賞、第37回泉鏡花文学賞
「あとかた」第20回島清恋愛文学賞
「男ともだち」第1回新井賞
「透明な夜の香り」第6回渡辺淳一文学賞
過去の直木賞候補作は、第150回「あとかた」
ノミネートは今作「しろがねの葉」で2回目。
amzn.to
「汝、星のごとく」(凪良ゆう/講談社)
その愛は、あまりにも切ない。
正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。
本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。
風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。
ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。
『汝、星のごとく』(凪良 ゆう)|講談社BOOK倶楽部
「汝、星のごとく(#汝星のごとく)」(#凪良ゆう/講談社)
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2023年1月17日
単に人間関係が密な島での恋愛小説かなと思っていたら、最近よく話題に上る様々な問題を絡めた読み応えのある話でした。精神的自由もテーマのひとつで、女性の自立が難しい閉鎖的な環境設定がうまく機能していて良き。https://t.co/GjXhvSsNvV
単なる恋愛ものじゃなく、ヤングケアラーやらなんやら色々細かい問題が複雑に絡み合って、それぞれ登場人物の人生が描かれている。
まずプロローグのフックがすごい。どういう物語になるのか思わず気になるような出だし。
本編は基本的に暁海と櫂の視点が交互に描かれているので疑問点がこまめに解消され、ダレることなく読み進められる。
面白かったので、これは余計な知識を入れずに読んで欲しい一冊。
作者受賞歴
「流浪の月」第17回本屋大賞
直木賞ノミネートは本作「汝、星のごとく」が初。
amzn.to
第168回直木賞候補作 発表されたー!
発表されたよー、とりあえずリスト。
情報は公式を参照しました。
◆候補作情報一覧◆
作者名 | 作品名 | 出版社 |
一穂ミチ | 文藝春秋 | |
小川哲 | 集英社 | |
雫井脩介 | 文藝春秋 | |
千早茜 | 新潮社 | |
凪良ゆう | 講談社 |
基本的に読むのは文庫なので、すべて初読になります。
調べたところ、この中で過去に候補に挙がったことがあるのが一穂ミチさん(第165回)、小川哲さん(第162回)、千早茜さん(第150回)ということで、3回以上選ばれたことのある作家さんはいません。
つまり、「今回でn回目だからさすがに○○さんに取らすでしょ~」という生半可な予想は許さない環境なわけですね。
小川哲さんは「熱源」回のひとなので読んでいて、「嘘と正典」という作品で候補に挙がってました。当時の印象は可も不可もなくという感じだったので、あれからどんな感じになったのか楽しみです。…というか「熱源」回は圧倒的過ぎたからしょうがないんだなあ…。
雫井脩介は「クローズド・ノート」のひと、という認識だったんだけど、調べたら「犯人に告ぐ」とか書いてて結構作風に幅があるんだなあと。
まあそんなこんなで今回も読んでいきたいと思いまーす。
第167回(2022年上)直木賞候補作全部読むの巻。
はじめに
発表された候補作を全部読んで、どの作品が受賞するか予想しました。
ワンポイント感想で明確なネタバレはしていませんが、本を読みなれている人は内容の予想がついてしまう表現があるかもしれないので、それがイヤな場合はブラウザそっ閉じ願います。
逆に、フワっとしたことしか言ってないじゃん、と物足りない方がいらしたらそれもごめんなさい。
リンクは全体的にAmazonへ飛びます。
個別感想
「絞め殺しの樹」(河崎秋子/小学館)
あなたは、哀れでも可哀相でもないんですよ
北海道根室で生まれ、新潟で育ったミサエは、両親の顔を知らない。昭和十年、十歳で元屯田兵の吉岡家に引き取られる形で根室に舞い戻ったミサエは、ボロ雑巾のようにこき使われた。しかし、吉岡家出入りの薬売りに見込まれて、札幌の薬問屋で奉公することに。戦後、ミサエは保健婦となり、再び根室に暮らすようになる。幸せとは言えない結婚生活、そして長女の幼すぎる死。数々の苦難に遭いながら、ひっそりと生を全うしたミサエは幸せだったのか。養子に出された息子の雄介は、ミサエの人生の道のりを辿ろうとする。数々の文学賞に輝いた俊英が圧倒的筆力で贈る、北の女の一代記。
絞め殺しの樹 | 書籍 | 小学館
いや、哀れかどうかはともかく可哀そうではあるよねえ、と思わず言ってしまいたくなるミサエちゃんの生涯。その人生の道のりを辿ろうとするらしい養子に出された息子の雄介。雄介君がミサエの人生を追体験していく話と思いきや全然そんなことはなく、ミサエちゃんの苦しい人生が語られるページ数多め。というか雄介君が結構達観しているため、なかなかミサエの人生に積極的に興味を持ってくれず、読者は「いつになったらさわやかな気持ちになれるのかしら?」という気持ちになる。結局ならない。
ある意味で「おしん」メンタルといいましょうか、何も持っていなくて辛抱して努力した先に何かを得て、何も持っていなかったがゆえに得たものさえ失ってなお辛抱する、みたいな話でした。つらい。
あ、何がどうなってそうなったかみたいなのは結構すぐわかると思います。ただ主題はそこじゃないので。
作者受賞歴
「北夷風人」(「北の文学2011」収録)第45回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)佳作
「東陬遺事」(「北の文学2012」収録)第46回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)
「颶風の王」三浦綾子文学賞、JRA賞馬事文化賞
「肉弾」第21回大藪春彦賞
「土に贖う」第39回新田次郎文学賞、2020年度釧新郷土芸術賞受賞。第33回三島由紀夫賞候補。
直木賞ノミネートは本作「絞め殺しの樹」が初。
「夜に星を放つ」(窪美澄/文藝春秋)
かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。
コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く「真夜中のアボカド」。学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさを描く「星の随に」など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五編。
『夜に星を放つ』窪美澄 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
現代モノ枠。大切なひとを様々な形で失い、傷ついたひとたちがそれでもまた他者に手を伸ばすことができるか、みたいな葛藤を乗り越えて生きる…みたいな短編集なんですがまあ「絞め殺しの樹」の後だとそういう繊細な機微が分かりにくくなりますね。前回(第166回)もなんか「同志少女よ、敵を撃て」の後に「新しい星」を読んで同じようなこと言ってた気がするけど著者五十音順で読むと決めてるので仕方ない。
文章は繊細で心理描写も申し分なく、ぜひ思春期に読んで欲しい一冊ではある。文庫化したら司書の方はYA棚に挿しといてください。
あらすじにもある「真珠星スピカ」と「星の随に」が特に良かったです。私のメンタルがお子様なんだな、きっと。
作者受賞歴
「ミクマリ」第8回R-18文学賞大賞
「ふがいない僕は空を見た」第24回山本周五郎賞
「晴天の迷いクジラ」第3回山田風太郎賞
「トリニティ」第36回織田作之助賞
過去の直木賞候補作は、第159回「じっと手を見る」、第161回「トリニティ」
ノミネートは本作「夜に星を放つ」で3回目。
「爆弾」(呉勝浩/講談社)
東京、炎上。正義は、守れるのか。
些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。
『爆弾』(呉 勝浩)|講談社BOOK倶楽部
はい待ってました純エンタメ枠。爆弾。時限爆弾が都内に仕掛けられちゃう話。爆弾は春の季語(コナン的に)
霊感がどーのこーのいいながら取り調べ相手の刑事に謎かけをしてそれを解かねば甚大な被害が…というよくある構図。
映像化と考えると取調室での攻防がメインになるところが弱いけど、これは文字媒体だからこそダレずに読める。今やっちゃうと「ミステリという勿れ」を思い出しちゃうのがちょっと惜しかったかなー。
あとはなんかベテラン刑事の失墜についてはもうちょっとなんかなかったのかなとは思う。想像のしようもないしなんかこう…何とも言えないもやり感。とはいえ「スワン」の頃よりも軸がしっかりとしていて一段と読みやすくなったように感じた。
作者受賞歴
「道徳の時間」第61回江戸川乱歩賞
「白い衝動」第20回大藪春彦賞
「スワン」第41回吉川英治文学新人賞、第73回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)受賞
咲くやこの花賞(文芸・その他部門)
過去の直木賞候補作は、第162回「スワン」、第165回「おれたちの歌をうたえ」
ノミネートは本作「爆弾」で3回目。
「女人入眼」(永井紗耶子/中央公論新社)
「大仏は眼が入って初めて仏となるのです。男たちが戦で彫り上げた国の形に、玉眼を入れるのは、女人であろうと私は思うのですよ」建久六年(1195年)。京の六条殿に仕える女房・周子は、宮中掌握の一手として、源頼朝と北条政子の娘・大姫を入内させるという命を受けて鎌倉へ入る。気鬱の病を抱え、繊細な心を持つ大姫と、大きな野望を抱き、それゆえ娘への強い圧力となる政子。二人のことを探る周子が辿り着いた、母子の間に横たわる悲しき過去とは――。「鎌倉幕府最大の失策」と呼ばれる謎多き事件・大姫入内。その背後には、政治の実権をめぐる女たちの戦いと、わかり合えない母と娘の物語があった。
女人入眼 -永井紗耶子 著|単行本|中央公論新社
歴史枠。今をときめく鎌倉殿、な頼朝の娘大姫入内にまつわる話。大河ドラマ観てる方は俳優さんを頭の中でキャスティングすると大変楽しいと思います。
「鎌倉幕府最大の失策」と言われていることさえ知りませんでしたが、普通に歴史の授業程度の予備知識があれば苦労なく読めます。風俗的な意味で深く理解しながら読みたいようでしたら国語便覧のご用意を。
何がどうってひたすらに「北条政子マジ怖い」というのが全体の印象でした。現代で言うところの「毒親」「お受験ママ」ですね。娘の意志とかどうでもよくて、ひたすら「自分が考えた娘のしあわせ」を押し付けていて、大姫の不調がそこから来ていることに全く気付いていないという…。周子と打ち解けた大姫がまたなんというかけなげでな。最後の歌がまた、大姫の方は政子の性格を理解しているという悲しさもあって心にキます。
作者受賞歴
「絡繰り心中 部屋住み遠山金四郎」(改題「恋の手本となりにけり」)第11回小学館文庫小説賞
「商う狼」第40回新田次郎文学賞
直木賞ノミネートは本作「女人入眼」が初。
「スタッフロール」(深緑野分/文藝春秋)
戦後ハリウッドの映画界でもがき、爪痕を残そうと奮闘した特殊造形師・マチルダ。
脚光を浴びながら、自身の才能を信じ切れず葛藤する、現代ロンドンのCGクリエイター・ヴィヴィアン。
CGの嵐が吹き荒れるなか、映画に魅せられた2人の魂が、時を越えて共鳴する。特殊効果の“魔法”によって、“夢”を生み出すことに人生を賭した2人の女性クリエイター。その愛と真実の物語。
「真実」はともかく「愛」ってなんかあったか? というのは思いますが。創造に対する愛かしら。
主人公は2人で、第一部が1960~70年代の特殊造形師マチルダ、第二部が2017年のCGクリエイター、ヴィヴ。
(おそらく)そう広くはない業界内を描いているため人間関係が狭い。「絞め殺しの樹」並みに狭い。それをご都合と受け取るか必然と受け取るかで評価は大きく変わる気がする。私は必然と取った。もちろん「物語の都合」なのは間違いないんだけど、第二部の主人公がヴィヴその人である以上それは必然として語られるべき文法だと思ったからである。メタで申し訳ないが。
自分にしか作れないものを作ること、仕事としてものを作ること、そして女性としてものを作ることをとにかく真摯に考えるふたり。
スタッフロールに名前が載らなかったこと、載ったことで分かれたふたりの明暗とラストシーンの読後感の良さ。
映画の知識を付けてから再度読みたい一冊。
作者受賞歴
「オーブランの少女」東京創元社主催の第7回ミステリーズ!新人賞
第66回神奈川文化賞未来賞(奨励賞)
「ベルリンは晴れているか」第9回Twitter文学賞国内編第1位
過去の直木賞候補作は、第154回「戦場のコックたち」、第160回「ベルリンは晴れているか」
ノミネートは本作「スタッフロール」で3回目。