第168回(2022年下)直木賞候補作全部読むの巻。
はじめに
発表された候補作を全部読んで、どの作品が受賞するか予想しました。
ワンポイント感想で明確なネタバレはしていませんが、本を読みなれている場合は内容の予想がついてしまう表現があるかもしれないので、それがイヤな場合はブラウザそっ閉じ願います。
逆に、フワっとしたことしか言ってないじゃん、と物足りない方がいらしたらそれもごめんなさい。
リンクは全体的にAmazonへ飛びます。
個別感想
「光のとこにいてね」(一穂ミチ/文藝春秋)
『スモールワールズ』を超える、感動の最高傑作
たった1人の、運命に出会った
古びた団地の片隅で、彼女と出会った。彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。
彼女に惹かれたその日から、残酷な現実も平気だと思えた。ずっと一緒にはいられないと分かっていながら、一瞬の幸せが、永遠となることを祈った。
どうして彼女しかダメなんだろう。どうして彼女とじゃないと、私は幸せじゃないんだろう……。運命に導かれ、運命に引き裂かれる
ひとつの愛に惑う二人の、四半世紀の物語
『光のとこにいてね』一穂ミチ | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
「#光のとこにいてね」(#一穂ミチ/文藝春秋)https://t.co/PUrNH9yl16
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2022年12月19日
裕福な家庭の少女と団地育ちの少女が出会うところから物語が始まり、小2、高1、29歳時での交流が3部構成でそれぞれ描かれる。文体が読みやすく心理描写も細やか。表題の意味が時系列で変わるところも◎
百合小説としても読めそう。
まあそんな感じなんですが、百合でした。
「光のとこにいてね」というフレーズが、各章ごとに繰り返し出てきて、作中のモチーフのひとつとして使われる「パッヘルベルのカノン」の主題と重なります。情緒的な文体の物語ではありますが、とにかく上記のようなフレーズ、モチーフ、小道具が多く、それをもとに結構ロジカルに構成されているのでは? という感じも受ける。夫の扱いだけなんとかしてやってくれまいか。都合よすぎだろアレ。
作者受賞歴
「スモールワールズ」第9回静岡書店大賞、第43回吉川英治文学新人賞
過去の直木賞候補作は、第165回「スモールワールズ」
ノミネートは本作「光のとこにいてね」が2回目。
amzn.to
「地図と拳」(小川哲/集英社)
「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」
日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野……。奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。ひとつの都市が現われ、そして消えた。
日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲の名もない都市で繰り広げられる知略と殺戮。日本SF界の新星が放つ、歴史×空想小説。
地図と拳/小川 哲 | 集英社 ― SHUEISHA ―
「#地図と拳」(#小川哲/集英社)https://t.co/oiT0R0NSCt
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2023年1月14日
600ページ超え、主な舞台は満州、質量も中身も重い。not for meではあったが、「満州地方都市たぶんこうだったんじゃないか劇場」歴史小説としてアリなんじゃないだろうか。ちょっと冗長には感じたが、刺さるひとには刺さりそう。
ノットフォーミーであった……。そもそも分厚いので持ちにくいし重い700g以上あった。背割れも気になるし分冊してほしい。
それはさておき内容も、ストーリーだけおさらいすると面白いんだけど、どうして自分の中でここまで評価が低いのか我ながら謎。
地の文も登場人物の発言も、繊細に描かれているというよりは冗長で、やはりあまり面白いと感じず。
作中に「神拳会」という銃弾を弾き返す肉体を得ることができる拳法的なものが出てくるのですが、急にそこだけファンタジーがかっていて浮いてるし、ある人物を生き残らせるためのご都合としか思えず…。
巻末見ると長期間連載だったみたいなので、そのせいなのかな?
ただ、山田風太郎賞受賞という情報とあらすじ等々を夫に話したところ、「めちゃめちゃそれっぽい」ということだったので、単にそういう小説なのかも。
作者受賞歴
「ゲームの王国 上/下」第38回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞
「SF作家の倒し方」(「S-Fマガジン」2021年6月号)第53回星雲賞日本短編部門
「地図と拳」第13回山田風太郎賞
過去の直木賞候補作は、第162回「嘘と正典」
ノミネートは本作「地図と拳」が2回目
amzn.to
「クロコダイル・ティアーズ」(雫井脩介/文藝春秋)
この美しき妻は、夫の殺害を企んだのか。
息子を殺害した犯人は、嫁である想代子のかつての恋人。被告となった男は、裁判で「想代子から『夫殺し』を依頼された」と主張する。犯人の一言で、残された家族の間に、疑念が広がってしまう。「息子を殺したのは、あの子よ」
「馬鹿を言うな。俺たちは家族じゃないか」未亡人となった想代子を疑う母親と、信じたい父親。
家族にまつわる「疑心暗鬼の闇」を描く、静謐で濃密なサスペンスが誕生!
『クロコダイル・ティアーズ』雫井脩介 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
「#クロコダイル・ティアーズ」(#雫井脩介/文藝春秋)
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2023年1月15日
元彼が夫を殺し、判決時に「嫁に頼まれた」と発言したせいで婚家一同がじんわり嫁を疑う話。義伯母がいい具合に燃料投下してくるので姑から嫁への疑惑が晴れず、最終的に思わぬ方向で決着を見る。割とハッピーエンド。https://t.co/nLoYv8f7su
帯を見て心の支え、ミステリ枠。と思ったら公式あらすじ的にはサスペンスだったという…w
暁美から見た想代子への疑惑の種は、普通だと嫁姑問題の域を出ない範囲なんですよね。それが東子(義伯母)の情報提供によってより深く長い猜疑心の道へ暁美を誘っていくわけですよ。東子も悪気があるわけじゃなく暁美夫婦を心配してのことだし、暁美自身も東子を頼ってのこと。登場人物の中でハッキリとした悪意を持って動いている人間は本当に少なくて、それがより人間の怖さを浮き彫りにしている気がしました。ラストは正直やっつけ感があった気がしないでもないけど、面白かった。
作者受賞歴
「栄光一途」第4回新潮ミステリー倶楽部賞
「犯人に告ぐ 上/下』第7回大藪春彦賞を受賞
直木賞ノミネートは本作「クロコダイル・ティアーズ」が初。
amzn.to
「しろがねの葉」(千早茜/新潮社)
戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出されて……。
生きることの官能を描き切った新境地にして渾身の大河長篇!
千早茜 『しろがねの葉』 | 新潮社
「#しろがねの葉」(#千早茜/新潮社)
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2023年1月16日
石見銀山で山師に拾われ育てられたウメ。元々夜目が利いたので成長後は銀堀を目指し見習いをしていたが第二次性徴を迎えたことで夢破れる。ウメが自身の生き方と女性としての生き方の両立を模索し、切り開いて行こうとする物語だと感じた。https://t.co/nP41hS9jaL
歴史枠。かなあ?
石見銀山という舞台にあまり意味を見出せなかった。帯のフレーズもあり、途中まで読んで、夢破れた後女郎になって云々という話かなーと思っていたのだけど、そこまで暗い話ではなく。
後半ウメが石見の女性としての生き方に適応してしまうのも、ちょっと前振りはあったけどヨロケ(塵肺)のせいで女性が生き残ることが多い苦しみ、みたいな感じでうーん? という。
登場人物の造形やエピソードはいいのに、ちょっと舞台設定が上滑りしてるかな、という印象でした。
作者受賞歴
「魚神」第21回小説すばる新人賞、第37回泉鏡花文学賞
「あとかた」第20回島清恋愛文学賞
「男ともだち」第1回新井賞
「透明な夜の香り」第6回渡辺淳一文学賞
過去の直木賞候補作は、第150回「あとかた」
ノミネートは今作「しろがねの葉」で2回目。
amzn.to
「汝、星のごとく」(凪良ゆう/講談社)
その愛は、あまりにも切ない。
正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。
本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。
風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。
ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。
『汝、星のごとく』(凪良 ゆう)|講談社BOOK倶楽部
「汝、星のごとく(#汝星のごとく)」(#凪良ゆう/講談社)
— 七海奈波@ななみ (@nanamix2) 2023年1月17日
単に人間関係が密な島での恋愛小説かなと思っていたら、最近よく話題に上る様々な問題を絡めた読み応えのある話でした。精神的自由もテーマのひとつで、女性の自立が難しい閉鎖的な環境設定がうまく機能していて良き。https://t.co/GjXhvSsNvV
単なる恋愛ものじゃなく、ヤングケアラーやらなんやら色々細かい問題が複雑に絡み合って、それぞれ登場人物の人生が描かれている。
まずプロローグのフックがすごい。どういう物語になるのか思わず気になるような出だし。
本編は基本的に暁海と櫂の視点が交互に描かれているので疑問点がこまめに解消され、ダレることなく読み進められる。
面白かったので、これは余計な知識を入れずに読んで欲しい一冊。
作者受賞歴
「流浪の月」第17回本屋大賞
直木賞ノミネートは本作「汝、星のごとく」が初。
amzn.to